
ライジング! 第15回
詳細設計が完成すると、次は画面のイメージをデザインしなければいけない。内部を決めても、見た目が決まっていなければアプリは成り立たない。
トップページはどんな画面で、タップすると出てくる画面はこうで、という風に画面を一つ一つデザインしていくのだ。
画面のデザインができると、疑似的にモックを動かしてチェックできる専用のアプリを使い、用意した画像を使って実際の動きを見る。
「……で、ここまで来たらようやくプログラミングに入ることができるんですよ」
松田の説明を聞いていた小柴は、食べていたつくねの串を置いて目頭を押さえた。
「くぅ……」
「え、僕の説明で泣くほど感動を!?」
「何でだよ! わさびがクリティカルしただけだ。一口で食べるんじゃなかった……」
松田がまだ手を付けていない自分のつくねを見ると、三口で食べられると想定しているのか、等間隔で三か所にワサビが乗っていた。小柴はそれを一口でほおばってしまったために、わさびが喉の奥に入り、粘膜を刺激したようだ。
「いやしかし……」
目に涙を浮かべたまま小柴が言う。
「急いては事を仕損じる……だな」
「そうですよ。さすがに一口で食べるのは無茶ですよ」
「アプリの話だよ! じっくり作っていかなきゃなって、改めて思ったんだよ。……しかしタイヨー、キミもなかなかの男だな」
「いい意味…………ではないですよね」
小柴の表情を見て、松田がセリフを軌道修正すると、小柴はニヤリと笑った。
「いい意味も多少は含むぞ。フフフ……私の目に狂いはなかったな。キミを選んで正解だったよ」
「え、ってことはやっぱり僕をこのプロジェクトに選んでくれたのって、コシさんなんですか!? 野島さんはそう言ってたんですけど、信じられなくて……」
松田が驚きながらそう言ったのを聞いて、小柴は逆に驚いたようだった。
「そりゃそうでしょ。他に誰が選ぶの?」
「いや……デジタル開発部の上司が一番ヒマな自分を選んで送り込んだのかと……」
「ないない。一緒に働くメンバーは、ちゃんと自分で選ぶタイプだよ私は。出かけるときに着るジャケットは、奥さんに選んでもらったりする意外な一面もあるんだけどね」
「それは知ったこっちゃないですけど……」
「反応冷たっ! 誰よりも暖かそうな名前なのに!」
騒ぐ小柴を横目に見ながら、松田は自分が選ばれた理由が何なのか改めて考えていた。しかしポジティブな理由は全く思いつかない。
いっそ今、目の前にいる小柴に聞いてみようかと思ったのだが、なんだかそれは少し勿体ないような気もしていた。
(もう少し自分で考えてみよう)
きっとそこには、自分が自信を取り戻すヒントが、きっと隠されているはずだ。
この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。