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ライジング! 第63回

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カウンターに座ると、正面は格子状の棚になっており、そこに日本酒や焼酎がズラリと陳列されていた。カウンターに座った人は、メニューを見ずとも好きなお酒を注文できるので便利だ。
布地の厚いおしぼりで手を拭い、メニューを開くと細い毛筆で書かれた味のある文字が踊っていた。棚のお酒が整然と並んでいたのに対し、メニューは自由気ままに書いたような印象だ。オススメには赤い丸がついている。

「わくわくする系のメニューだな」

おしぼりの上にスマホを伏せて置き、小柴が目を輝かせる。固い机の上に置くとバイブ通知の時に大きな音がするので、小柴はいつもこうするのだ。
すると店員さんがカウンターの向こうから笑顔で声をかけてきた。愛嬌満点の女性店員さんだ。

「一杯目何になさいますか?」

その問いかけに、松田は居心地の良さを感じた。お正月に実家で、お雑煮のお餅を何個食べるかを母親に問われたときの様な雰囲気だ。店員さんの声色と笑顔に、松田は底なしの安心感に襲われていた。

「生ビールにしようかな……コシさんどうします?」

生ビールは店によって味のばらつきがあるから頼むのが怖い。以前そんな話を小柴としていたので、松田は一度お伺いを立ててみた。

「じゃあ生二つで」

小柴は生ビールを試す気になったようだ。

「何食べよっか。ポテサラは行くでしょ。お刺身もいただこう。……あ、ハムカツあるじゃないの! タイヨーは何か食べたいのある?」

「オニオンスライスと鶏の塩焼きですね。あとは……豚の生姜焼きもいいですか?」

「いいもん選ぶじゃない」

あらかたの注文が決まった所で、店員さんが生ビールを持って来た。

「乾杯!」

冷えたタンブラーを口に運ぶと、まずなめらかな泡が唇に当たった。続いて冷えたジョッキのフチの感触が来る。そのままタンブラーを傾けると、泡の下からキンキンに冷えたビールが押し寄せてくる。松田は舌の上にそれを通過させて一気に喉に流し込んだ。仕事終わりの火照った体には、冷えた液体をガバッと体内に入れたい。だから人はとりあえずビールを頼むのかもしれない。

「ああうまい!」

この店の生ビールは味も香りも申し分なかった。ビールサーバーが丁寧に洗浄されているようだ。小柴も満足そうに頷いている。
注文を終え、料理が来るのを待っている間に松田は今日の打ち合わせで気になったことを小柴に聞いてみた。

「コシさん打ち合わせの最後の方ずっと黙ってましたけど、何か考えごとでもしてたんですか?」

「ああ。まあね。タイヨーは開発状況のことをどう思う?」

「ん~、かなり順調じゃないですかね。毎週ちゃんと報告も貰えてますし」

「そこなんだよな……」

小柴は眉根を寄せて意外なことを言い出した。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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