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ライジング! 第94回

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「コシさん、メンテナンス入れませんか!」

「メンテナンスって、あのメンテナンス?」

「そのメンテナンスです。現状アプリは動いてるんですけど、河原崎さん曰くユーザーが増えるたびにトラブルのリスクは高まるそうです」

松田の言葉に野島が続いた。

「このままではいつかパンクしますし、そうなるとまた不満を持つユーザーが増えてしまいます。この流れを一旦止めるために、メンテを入れてはどうかと思うんですが」

小柴はじっくり考えてから口を開いた。

「ユーザー目線で考えると、メンテに入ったら〝修理中〟ってことで、メンテが明けたら当然問題が解消していると期待するよね? でも今の話を聞いていると、とりあえず新規ユーザーを入れないためにメンテしようってことでしょ? 得策じゃない気がするんだけど」

一見いいアイデアに思えるのだが、メンテナンスを入れた所で問題の本質的な解決につながる保証はないのだ。そんな状態でメンテナンスを入れるのは、ユーザーに対して不誠実だと小柴は思ったのだ。すると松田が反論してきた。

「でもメンテ中に色々修正すれば、一気に解決するかもしれないんですよ!」

「〝かも〟じゃダメなんだよ。〝絶対〟解決しますっていうなら、私もメンテを入れることには賛成するけど。問題を解消する保証がないなら論外だよ」

「でも、これは今以上に事態を悪化させないためのメンテですよ! 不満を持つユーザーが増えてもいいんですか!」

「いいわけないよ。でもまず、今いるユーザーのことを考えないと」

「ちゃんと考えてますよ!」

「それなら、解決する保証なしでメンテを入れるのがダメってことは分かるでしょ」

「何もしないよりマシでしょ!」

「ちがうな。河原崎さん含めて、スタッフ全員が頑張ってくれている。でも、我々の頑張りなんてユーザーには関係ないんだよ。〝マンガホープ〟はローンチのタイミングでユーザーのみなさんを裏切った。ここでもう一度裏切るなんて私にはできない。だから、絶対の保証が持てないメンテを入れることはできない」

「じゃあ今の状況を指をくわえて見てろってことですか!」

松田が声を張りあげたところで、野島が会話に割って入った。

「タイヨーやめとけ! リーダーのコシさんがNOって言ったんだ。それならチームとしてもNOだ」

「分かりましたよ!」

松田は吐き捨てるように言うと、席を立ってどこかへ行ってしまった。追いかけようとする野島を、小柴は制した。しばらく一人にした方がいいだろう。

「すいませんコシさん。あいつも必死なんです」

「大丈夫、分かってる。にしてもタイヨーがあれだけ感情を表に出すのは珍しいね」

「そうですね」

プロジェクトを進める中で意見が対立することは今までにもあったが、これほどの衝突は初めてだった。

「コシさんもそうですけど、タイヨーもなかなか頑固ですよね」

「え、私もそう?」

「そうですよ。……気付いてなかったんですか?」

「いやいや、私ほど柔軟な人間はいないよ! ……たぶん。でも、どうしてもメンテを入れることが良いこととは思えないんだよなあ」

小柴はそう言って、松田が走り去った方向をじっと見つめていた。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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