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ライジング! 第14回

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「そうならないために、要件定義は何度も詰めて、時間をかけて決めていかないとダメなんですよ」

「なるほど……じゃあ要件定義が終わったら、ついにプログラミング開始だな」

小柴の言葉に松田は首を振った。

「まだです。要件定義が終わったら、次は詳細設計です」

「詳細設計?」

「はい。建物でいう設計図のようなもので、要件定義を元に細かく図面を引いていくような作業ですね」

企画段階では「こうしたい」というふわっとした話だったのが、詳細設計まで来ると「こういう動きになります」と佇まいが見えて来る。どういうシステムにするのか、サーバーはどこを使うのか、といったことが決まって来るのもここだ。そのため詳細設計が終わると、理論上はその先は誰が作っても、完成度に違いはあれどアプリとしては同じものができてしまうのだ。

「なので詳細設計はそれまでの打ち合わせの集大成であり、その先の作業の指針にもなる大事なポイントです」

そこまで喋ると、松田はジョッキに残ったビールを一息に飲みほした。すかさず小柴がメニューを差し出してくる。
また生ビールでいいかなと思っていた松田だったが、目立つ位置に書かれたメニューが妙に気になった。

「コシさん、この凍結生レモンサワーって何ですかね?」

「恐らく……凍結した生のレモンサワーだな」

「そりゃそうでしょうけど!」

「冗談だよ。まぁ気になったなら注文してみなよ」

それもそうだと思った松田が注文すると、やって来たのは八分の一のカットレモンが大量に入ったレモンサワーだった。しかし、その一方で氷が全く入っていなかった。入れ忘れかと思いつつグラスを持った松田は、あることに気が付いた。
(冷たい……)
そう、グラスが冷えているのだ。氷がひとかけらも入っていないのにだ。そこで松田はようやく気が付いた。大量に入ったレモンが、カチカチに凍らされていることに!
つまり、レモンが氷代わりになっているのだ。レモンは絞って入れられているわけではないので、極端にすっぱくなることはない。また、氷のように解けて割り物の味を薄くさせる心配もない。単純なようで、かなり考えられた飲み物だった。
しかも、グラスとレモンはそのままで、中身だけおかわりも出来るらしい。
松田が感心していると、店員さんが串に刺されたウズラの卵を持って来た。

「こちら、エル・フランスというブランドの卵です。一般的なウズラの卵より大きく、味も濃厚なのが特徴です」

串に刺さった三つのうちの一つを食べると、確かにクリーミーだった。

「言われなきゃ気付かなかった自信がありますが、確かに濃厚で美味しいですね」

「押しつけがましくなっちゃいけないけど、良いものはどこがいいのかをしっかり説明するってのも大事かもなあ。プロがオススメする漫画って、なんか見ちゃうからな」

「そうですね」

説明が無くても、飲めば良さが分かる凍結生レモンサワーと、説明があれば、よりおいしく感じるエル・フランス。どちらのメニューも、その特徴を知り尽くしたうえで説明をつけるかどうかを決めたのだろう。

「この店は詳細設計がしっかりされてるなぁ」

松田のつぶやきに、小柴が反応した。

「そうだ、話が続きだった。詳細設計が終わったら、もうさすがにプログラミング開始でしょ?」

「違いますよ」

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。
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