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ライジング! 第96回

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デジタル開発部の自席に戻り、松田は一人で頭を冷やしていた。メンテナンスを巡って、小柴とあれほど意見が対立するとは思っていなかった。メンテを行えばいい、というのは、仮眠からすぐ目が覚め、どうすればいいかずっと考えた末に出した結論だ。先に相談した野島にも電話で相談した菅にも、すぐ賛成してもらえた。それなのにちょっと話を聞いただけの小柴が、すぐさまメンテに反対してきた。

「なんでだよ、コシさん」

頭を冷やすつもりが、また腹が立って来た。このまま座っていてもモヤモヤするだけで、他の仕事も手につかない。松田はもう一度メンテについて小柴と話し合うために五階へ行くことにした。
昼は過ぎていたが、昨日が遅かったせいか編集部にはまだ人が少ない。机のスキマを縫って小柴の席に行った松田だったが、そこに小柴の姿はなかった。松田は近くにいた新人の柳に声をかけた。

「クレーム電話減ったね」

「いや、まだ結構かかってきますね。読者係が対応を引き継いでくれたんで、クレーム電話が来たらそっちに回してます」

「そう……ちなみに、コシさんどこ行ったか知ってる?」

「今ちょうど連載ネーム会議してます。こんなときに重なっちゃって大変ですよね」

「時間かかる感じ?」

「連載ネーム会議ですからね。数時間は戻ってこないですよ。急用だったら携帯は繋がると思いますけど」

「分かった。ありがとう」

柳に礼を言い、松田はどうすればいいかを考えた。メンテの件は急用といえば急用だが、一度終わった話を蒸し返す形なのだ。大事な会議中の小柴に電話で連絡するのは気が引けた。

(でもそうか……数時間は戻ってこないのか)

松田の中で、よからぬ考えがむくむくと頭をもたげてきた。おぼろげなその考えは、時間が経つにつれて輪郭がクッキリとしてくる。
コシさんのいないうちに、一度メンテを入れてしまおうか。
松田はそう考えていたのだ。行動に移すべきか、やめておくべきか。少し離れた場所では、河原崎がまだパソコンで作業をしてくれていた。
実は朝の時点で河原崎にもメンテを入れることについて意見を聞いていたのだ。その時に彼はこう言っていた。

「良いとも悪いとも言えないけど、やってくれって言われたらやるよ」

河原崎はメンテ反対派ではないのだ。
柳によると、クレーム電話はまだかかってきているという。主に新規ユーザーからの電話だろう。新規ユーザーの流入を数時間でも抑えられたら……。
迷っている時間すら勿体ない。松田は河原崎にメンテ作業をしてもらうことを決意し、作業中の彼の元へ歩を進めた。

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この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。


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