連載小説

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ライジング! 第118回

ライジング! 第118回

前の話へ / 連載TOPへ 強烈な喉の渇きで目が覚めた松田は、見慣れない天井に首をかしげた。自分は一体どこで寝ているのか。体を起こすと、見慣れた光景がそこにあった。 「ああ、会議室か」 松田が寝ていたのは照鋭社の各階にある小さな会議室だ。小さいながらソファーもあるので、そこで仮眠をとる人も多い。 痛む関節をほぐしていると、松田は段々と昨日の出来事を思い出してきた。 中華屋の後は三軒ハシゴして、結局全部で四軒の店を飲み歩いたのだ。参加者は店を変えるごとに減って行き、最終的

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ライジング! 第117回

ライジング! 第117回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 「〝マンガホープ〟バージョンツーの完成を祝って、カンパーイ!」 小柴による乾杯の発声で、部屋中でグラスが重なる音が響いた。 バージョンワンのローンチ日、運命の日からは一年以上が過ぎていた。アプリ終了の危機を脱してからは、大殿にバージョンツーの開発を依頼し、ようやくこの日、完成にこぎつけたのだ。開発に際しては伝説のプログラマー、ジャバウォックこと河原崎にも手伝ってもらったそうだ。 「飲んでるかタイヨー」 野島がビール瓶を持ってや

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ライジング! 第116回

ライジング! 第116回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 夢岡を殴打した氷上は、裏工作のことは一切口外しないことを条件に、不起訴処分になっていた。しかし、Eセサミの社内での彼の評価は地に落ち、ついに何の仕事も与えられず、給料が大幅カットになってしまっていた。 作業室にいてもつらい氷上は、受付近くの休憩スペースで時間を潰す日々だった。そんなある日、氷上は視界の隅に懐かしい顔を発見した。 「菅さん!」 大声で叫んで駆け寄った氷上は、立ち去ろうとする菅の手を掴んだ。 「待ってください!」

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ライジング! 第115回

ライジング! 第115回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ バァン! 大きな音をさせて、氷上がテーブルに両手をついた。完全に頭に血が上った氷上が、ガラス製の大きな灰皿を手に掴む。顔は真っ赤で目は焦点が定まっておらず、我を失っているようだ。 「あぶない!」 氷上が灰皿を振りかぶったのを見て、夢岡が上條に覆いかぶさった。 ガコン! 鈍い音が聞こえ、続けて「キャアアアアアア!」という悲鳴が店内を満たした。テーブルには頭を血で染めた夢岡がいる。その傍らで、ガラスの灰皿を持った氷上が虚ろな表情のま

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ライジング! 第114回

ライジング! 第114回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 四月某日、氷上に呼び出された上條と夢岡が、うす暗い喫茶店で彼と相対していた。個人経営の小さなその店は時代に逆行するように全席喫煙可で、客が疎らな店内では愛煙家たちが紫煙をくゆらせていた。氷上もぱっぱっと音をたててフィルターを吸うと、もわっと煙を吐き出して、大きなガラス製の灰皿に短くなったタバコを押し付けた。 上條は嫌味のようにせき込み、手をパタパタ仰いだ。 「で? 話ってなによ」 その言葉で氷上の頭に血が上ったようだ。 「分か

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ライジング! 第113回

ライジング! 第113回

 前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 「ではこれで話し合いは終わりですね。いや~良かった。もしお金を受け取っていたら、ナノ&ナノが業界の笑いものになるところでした。危ない危ない」 そう言ってにこやかに笑った権田は、ふと思い出したように言った。 「笑いものといえば、Eセサミさんが半端な仕事をして、いま業界の笑いものになっているそうですよ。御社の役員さんはお話がお上手でお顔も広い」 ローンチ日の深夜に編集部にやって来た、タンクこと赤井稀彦が飲み屋でさんざんEセサミの

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ライジング! 第112回

ライジング! 第112回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 権田はピカピカのアルマーニのスーツをスマートに着こなし、誰よりも悠然と会議室に入って来た。七十歳は超えているだろうが、肌艶は驚くほどよく、白髪も一切見えない。目元は猛禽類を思わせるほど鋭く、かすかに湛えた笑みが、かえって彼の迫力を倍増させていた。 「どうも初めまして。会長の権田です」 空気をビリビリと振るわせるようなよく通る声で権田があいさつをすると、思わず気圧された服部が生唾をごくりと飲み込んだ。値下げ交渉は到底無理だろう。

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ライジング! 第111回

ライジング! 第111回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ ナノ&ナノとの支払いについての話し合いの場が持たれることになったのは、最初に電話があってから三日後のことだった。 照鋭社では改めて顧問弁護士も交えて検討がなされ、全額支払うしかない……という結論になっていた。契約書の文言をどう曲解しようが、アプリが納品され、それを承認したという事実がある限り、不利は覆せず全額の支払い義務は発生するらしい。 この件での支払いが確定すれば、小柴は〝マンガホープ〟責任者の任を解かれることが言い渡されていた

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ライジング! 第110回

ライジング! 第110回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 「紹介するよ。この人は店の常連仲間のダイちゃん。キミら気付かなかっただろうけど、ずっと店の奥で飲んでたんだよ」 自分も気付かなかったことは棚上げにして、小柴がダイちゃんを紹介した。ダイちゃんは「よろしく~」と焼酎の水割りが入ったグラスを小さく掲げる。 「今度はこっちだな。ダイちゃん、この、趣味で切手集めてそうなのがヤジマ」 「ノジマです。趣味はテニスです」 「そしてその横の、授業中に鼻血出して急にクラスの注目浴びてそうなのが

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ライジング! 第109回

ライジング! 第109回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 夕方から飲み始めた松田たちは、最終的に三軒をハシゴしてから小柴の行きつけである〝若林〟に来ていた。 「あら小柴さんお久しぶり。お友だち連れてくるなんて珍しい」 お母さんの言葉に、珍しく泥酔した小柴がややろれつの回らない口調で反論する。 「嫌だなあお母さん。友だちじゃないれすよお。こいつらとはたとえ同じクラスになっても、修学旅行の班も、選択教科も、体育の時間で二手に分かれてやるサッカーのチームも、好きになる子も絶対別々れすよお」

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