連載小説

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ライジング! 第93回

ライジング! 第93回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 河原崎や大殿の尽力もあり、朝の五時になるとアプリは正常に動き出していた。 「これで解決ですね!」 笑顔を見せる松田を見て、河原崎はクールに答えた。 「いや、あくまで応急処置が終わっただけだよ。ずっと血は流れてる状態だね。輸血してるから死にはしないけど、抜本的解決には至ってない」 「そんな……」 「しばらくは大丈夫だけど、ユーザーが増えると今の方法でもいずれ限界が来るね」 「そうですか……でも、ここまで回復していただいてあ

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ライジング! 第92回

ライジング! 第92回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ エスプレッソをお供に、河原崎が作業を始めていた。大殿と彼の会社のメンバーも遠隔で作業に加わり、〝マンガホープ〟復旧作戦がついに動き出した。 編集部員たちは、あまりプレッシャーになってもいけないということで、少し離れた場所から様子をうかがっている。小柴もその一人だ。 「あれだなタイヨー、プログラマーって作業中はずっとキーボードをパチパチ叩いているものだと思っていたんだけど、そうでもないんだな」 河原崎は画面からは一切目を離さないも

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ライジング! 第91回

ライジング! 第91回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 「分かったぞ! ジャバウォックだ! あなたジャバウォックでしょ!」 「ど、どうしたんですか野島さん」 松田の困惑をよそに、野島は興奮した様子で河原崎を見つめている。一方の河原崎は、表情を崩さずに頭をポリポリと掻いた。 「そんなあだ名で呼ばれてたこともあったっけかなあ。昔の話だよ」 それを聞いた松田はパニックに陥った。まさか異名がつくほどの犯罪者なのだろうか。だとしたら自分はとんでもない人物を会社に招き入れたことになる。 「

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ライジング! 第90回

ライジング! 第90回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ それにしてもクレーム電話は鳴り止まない。対応している編集部員たちがどんどん疲弊していくのが目に見えてわかる。ネット上の評判も相変わらず悪く、起動画面から全く動かない〝マンガホープ〟は「壁紙アプリ」と揶揄され始めていた。 頼りの大殿はいつ作業を開始してくれるだろうか。 松田がそんなことを思っていると、また目の前の電話が鳴った。しかしこれは外線ではない。裏受付からの内線電話だ。松田が出ると、裏受付のおじさんが困惑したような声を出した。

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ライジング! 第89回

ライジング! 第89回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 「いえいえ! とんでもない! こちらも起こり得るトラブルを予見できなかったと反省していた次第で……もしかして〝漫to漫〟を復活させるとかですか? だったら全力でお手伝いさせていただきますよ」 大殿は松田に怒るどころか、自分でも反省をしていたのだ。しかも、既にサービスが終了した〝漫to漫〟を復活させることまで考えてくれていた。松田は自分がいかに恵まれていたかを思い知った。 「大殿さん……どうもありがとうございます」 「とんでもな

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ライジング! 第88回

ライジング! 第88回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 赤井が帰り、編集部には一種の弛緩したような空気が流れていた。すると、それをきっかけのようにしてまたクレーム電話がかかり始めた。匿名掲示板で誰かが「電話したらひどい対応をされた」と書き込み、周りを煽動していたのだ。やりとりもテキストでアップされていたのだが、編集部の誰もがそんな電話対応をした覚えはなく、ねつ造なのは明らかだった。 松田は夢岡の仕業ではないだろうかと思い、すっかりそんな思考をしてしまうようになった自分に落ち込んだ。それも

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ライジング! 第87回

ライジング! 第87回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 赤井稀彦(あかい まれひこ)。彼は照鋭社の役員で、戦車のようにパワフルに働くことから「タンクさん」の愛称で呼ばれている。ヒット漫画も数多く手がけ、漫画がエンタメのど真ん中にいた時代を最前線で駆け抜けたレジェンド編集の一人だ。 そんな赤井の最大の特徴は、かなりの酒好きということだ。ザルとも底なしともウワバミとも呼ばれるほど酒に強く、およそ潰れるということがない。むしろ飲めば飲むほどパワーを増していくので、一緒に飲みに行ったら朝までコー

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ライジング! 第86回

ライジング! 第86回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 「あの……今日って〝マンガホープ〟のローンチの日……つまり誕生日ってことじゃないですか。だから、あの、ついさっき思いついてですね、今日を誕生日に設定したんです。でもそういえばTwitterが使えるのって十三歳以上だったような……」 つまり、今日が誕生日ということは〝マンガホープ〟アカウントの年齢は0歳。これは明らかな規約違反だ、ということでアカウントがロックされてしまったのだ。 「あっちゃー……」 松田は天を仰いだ。設定した柳

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ライジング! 第85回

ライジング! 第85回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 松田はEセサミから戻ると、真っ先に小柴と野島の元へ行き、自分がしてしまったことを告白した。小柴は話をじっと聞いてから口を開いた。 「じゃあその夢岡って子が氷上さんをたぶらかして、適当な仕事させて、ローンチ当日に逃げだすような事態にさせたってこと?」 「そうだと思います。すいません」 「いやいや、社外秘を漏らすのはいただけないけど、今の話が全部事実だとして悪いのは氷上さんだな。野島はどう思う?」 「同感です。夢岡って男もいけ好

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ライジング! 第84回

ライジング! 第84回

前の話へ / 連載TOPへ / 次の話へ 「もしもし」 『あ~ザブちゃん? 今日って遅くなるんだっけ?』 電話の相手は妻の亜沙美(あさみ)だった。彼女は小柴の下の名前である健三郎から一部を取り、小柴のことをザブちゃんと呼んでいた。 「今日は遅くなるよ。言ってなかったっけ?」 『聞いたかもしれないけど、思い出すより、もう一回聞いた方が早いと思って』 「なるほどね。ちなみに〝マンガホープ〟はもうダウンロードしてくれた?」 『まだ。漫画読みたくなったらダウンロードしよ

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